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実験計画法(7)-Aligned Rank Transform

直交表などの実験計画法を解析する場合、分散分析(ANOVA)が基礎となります。しかしANOVAは正規分布を仮定しており、対象データが正規分布かどうかより著しく逸脱した外れ値の影響を受けやすいです。バランス型の実験計画を前提として、変数変換によりノンパラメトリックなANOVAを実行できるAlighned Rank Transform(ART)[1][2][3]を紹介します。

Aligned Rank Transform(ART)

一元配置実験や二元配置実験に適用できるノンパラメトリックな検定というと、Kruskal-Wallis検定やFriedman検定があります。しかし、これらは主効果しか扱えません。ANOVAで扱えるような交互作用をロバストに行いたいと思ったときに、事前にAligned Rank Transformで変数変換を行いANOVAを実行することで所望の結果を得ることが出来ます。

Aligned Rank Transformでは対象とする主効果、交互作用毎に変数変換を行います。例えば要因A,Bの二元配置実験で交互作用まで確認する場合、要因A、B、交互作用AxBのそれぞれ3回の変数変換とANOVAを行うことになります。

二元配置 ART 分散分析(two-way ART ANOVA)

[math] \displaystyle l [/math]を繰り返し実験数として、全平均[math] \displaystyle \bar{x} [/math]を、A条件[math] i [/math]水準の平均を[math] \displaystyle \bar{x}_{ i \cdot } [/math]、B条件[math] j [/math]水準の平均を[math] \displaystyle \bar{x}_{ \cdot j } [/math]、要因A=[math] i [/math]水準及び要因B=[math] j [/math]水準の平均を[math] \displaystyle \bar{x}_{ ij } [/math]としたとき、二元配置主効果A、BのAligned Rank Transformは下記の通りです。

A : [math] \displaystyle x'_{ijl} = x_{ijl} - \bar{x}_{ij} + \bar{x}_{ i \cdot } - \bar{x} [/math]
B : [math] \displaystyle x'_{ijl} = x_{ijl} - \bar{x}_{ij} + \bar{x}_{ \cdot j } - \bar{x} [/math]

交互作用は同様の変数表記を用いて、下記のような変換となります。

AxB : [math] \displaystyle x'_{ijl} = x_{ijl} - \bar{x}_{ i \cdot } - \bar{x}_{ \cdot j } + \bar{x} [/math]

上記のような変数変換後、ランク付けを行った結果に対して通常の分散分析を各効果毎に行います。

二元配置 ART 分散分析の計算例

簡単のため2要因各2水準で繰り返し数2回の実験を考えます。応答は下記のようになったとします。

f:id:OceanOne:20200921004759p:plain:h150

Aligned Rank Transformの計算方法に従い、変数変換(行頭ピンク色)、変換後変数の順位付け(行頭オレンジ色)を行った結果が下記です。

f:id:OceanOne:20200921005541p:plain

上記データについて、通常の分散分析を適用した結果が下記で、

f:id:OceanOne:20200921014949p:plain:w400

Aligned Rank Transformを適用した結果は下記の通りです。

f:id:OceanOne:20200921015019p:plain:w400

まとめ

限られた実験資源から二元配置実験の交互作用を検証する場合、外れ値/飛び値/外乱には本当に頭を悩まされます。本稿のテクニックはあまり普及していないように感じますが、実務の面から知らないだけで適用機会は多いのではないかと思います。技術者は物理モデルにしろ解析手法にしろ引き出しが多くてナンボです。

例によってこちらのツールにも実装しています。


[1]Higgins, J. J., Blair, R. C. and Tashtoush, S. (1990). The aligned rank transform procedure. Proceedings of the Conference on Applied Statistics in Agriculture. Manhattan, Kansas: Kansas State University, pp. 185-195.
[2]Higgins, J. J. and Tashtoush, S. (1994). An aligned rank transform test for interaction. Nonlinear World 1 (2), pp. 201-211.
[3] depts.washington.edu